木村崇人 森_living展
2009年 7月28日 ~ 8月9日
世田谷文化情報センター 生活工房 (東京)
森_livingは、木村にとって新たな挑戦となる大型作品の展示となった。
会場は扇形のイベントホールのようなパブリックスペースであるため、訪れる人は様々な用事でやってくる。
年齢も目的も様々な人を、会場へ誘導し、ひきつけ、巻き込むような作品・・・
そして、テーマは『森のリビングルーム』である。
都会のビルの一角に、森のリビングルームを考えなくてはならないのは、至難の業だったようである。
構想におよそ2ヶ月を費やして複数のスタイルを考え出したが、担当者の希望と多くの人がゆっくりと過ごしてもらえるような作品という考えの下、今回の作品が誕生した。
オーガンジーに墨で森のシルエットを描き出した、カーテン状の作品が何枚も天井から吊り下げられている。そのカーテンは、間隔をあけて会場を覆うように、4層に重なって奥へと続いている。
本来の森を散策した時、森の中を流れる時間の流れ方がとても印象的だったという。
陽の光が移動しながら時の流れを告げ、陽のかげりと共に森の風景は刻々と変化するのだが、その美しい変化を、このカーテンで表現したのだ。
ライティングによる光の現象を利用して、森のシルエットを描きだした墨の部分と、オーガンジーの白いカーテン部分が、陽の光で刻々と変化する森の表情を再現する。
ライトがカーテンの手前で点灯する場合、白いカーテンの部分は反射し、墨で描かれた部分が黒く墨絵のように浮かび上がる。
徐々に手前のライトが消灯し、奥のライトが点灯し始めると、白い部分は霧のようにうっすらと光を透過し、黒く描かれた部分は光を吸収するかのように、奥の様子が透けて見える現象が起きる。
こうして幾層にもかけられたカーテンの白い部分と墨で描かれた黒い部分は、ライトが点灯する場所の変化に反応しながら、反射したり透過したりして、森の鬱蒼とした、幻想的な靄のかかったような姿を再現するのである。
*文章の描写には限界があるので、下に会場の変化がわかるように時間を追って撮影された写真を並べてみたので参考に見てもらいたい。
会場に設置されているライティングは、全てコンピューターでプログラムされており、手前から奥へと陽の光が移動しているように徐々にライトが点灯する。
本作品においては、世田谷パブリックシアター・シアタートラム(http://setagaya-pt.jp)の舞台照明を専門とされるプロ集団の方々。
木村のイメージする森の陽の光を再現するために、現場に機材を持ち込んで、一日かけてライティングを調整、プログラミングしていただき、本作品で最も重要になってくる光の演出を手がけていただいた。
カーテンを掻き分けて奥へと進むと、一番奥に星の木もれ陽が鑑賞できるステージが用意されている。
これまで星の木もれ陽のライトを調光することができなかったが、舞台に使用する特殊な道具を使わせていただけたことで、時間によって星が鈍く現われたり、強い光と共に美しく現われたりするような演出が可能になり、木陰で見ることができるこもれびに近い表現をすることができた。
会場の2箇所には直径2メートルほどのプールが用意されており、中には杉檜の葉、枯れ葉がそれぞれに敷き詰められた。
杉檜のプールには、石で作った椅子。枯葉のプールには、木の皮を並べたようなソファーが置かれており、訪れた人々は椅子に座ったり葉を踏んだりして、くつろぐ様子が見られた。
会場内には特殊なスピーカーが設置され、会場の奥へ進むと、徐々にかえるの鳴き声や川のせせらぎの音などが耳元で聞こえてくる仕掛けがれており、初めて音を作品に持ち込んだ木村の新しい試みが見られた。
今回の展示の大きな収穫は、なんと言っても舞台ライトの専門家と共に作品を作り上げることができたことである。
1灯、1灯個別に調光をすることができるため、手前から奥へ、左から右へと自由に調光をすることができ、光の演出の幅が格段に広がった。
また、光の現象を利用した作品はこれまでも数多く発表してきたが、この作品はショップやカフェなどの店舗にも利用できる作品だと、多くの方から助言をいただいた。
会場のサイズや形状に合わせて、カーテンのサイズや枚数を調節することで、多くのニーズに応えられる巡回型としても大きな可能性を秘めている。
森シリーズの作品は、美術業界だけではなく、新しい表現の場を開拓できる一歩になるのではないだろうか。
会場全体の様子
会場手前部分