出前調理人 ~100V電撃調理法~
2008年 5月3日
UDCK ~柏の葉アーバンデザインセンター~ (千葉/柏市)
久しぶりに一般に向けての出前調理人のパフォーマンスが、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)で行われた。
今回は、木村さんこだわりの、手作りプレーンソーセージとチョリソーソーセージは200本用意され、パンは150個。
丸一日を要して作られたソーセージは、一日大切にねかされて、当日のイベントに持ち込まれた。
しかし、当日は朝からあいにくの雨。
セッティングの時間になっても雨が止まないので、野外パフォーマンスは急遽敷地内のギャラリーを使用して行われることになった。
準備された会場には、とうてい調理道具とは思えない機材が並び、会場に入っただけで感電しそうな異様な雰囲気。
準備中の会場内を外からのぞく人々も、不可解な顔をする。
開場と共に、外で待ちわびていた人がどっと押し寄せて、会場はあっという間にすし詰め状態。この人の熱気で会場が蒸し返すような暑さの中、おなじみのギラギラ衣装を身にまとった木村さんが登場した。
出前調理人(木村さん)は、調理方法の説明をし、感電する可能性があることを告げ、あらかじめお子さんのいる父兄には、お子さんが作品に手を触れないよう呼びかけた。
いやおう無しに会場の緊張は高まる。
今回は、万が一、1つのブレーカーが落ちてしまってもソーセージを焼き続けられるように配慮して、回線を2箇所から引いた。
机上に5個のホットドッグを3列に並べ、15個のホットドッグを一気に焼く。
いよいよソーセージを焼くための配線を、最前列を陣取る子供たちと一緒に行った。
15個のホットドッグが、色とりどりの配線コードでつながれて美しい。
配線が正しく繋げられているか、ワニクリップが接触していないか、念入りに確認。ショートしてしまう可能性があるので重要な作業だ。
確認終了すると、いよいよ電気を流す。
「では、電流を流します。最前列のお子様は絶対に手を触れないようにお気をつけください!」
出前調理人がスイッチを入れると、手元のランプが点灯。100Vの電気が15個のホットドッグに流し込まれた。
??????
バリバリ音を立てて破裂するのをイメージしてしまうためか、スイッチを入れてもすぐに反応が出ないホットドッグに少々拍子抜けする鑑賞者。
それでも緊張した空気が会場に立ち込めているとき・・・
突然出前調理人が、バチン!!!と手を叩き、鑑賞者もスタッフも、飛び上がるように驚く。
出前調理人の、ちょっとしたいたずら。
会場の雰囲気が一気に和んだところで、作品についての質問が投げかけられたり、作品ができた経緯などを話したりして、ソーセージが焼けるのを待つ。
しばらくすると、ソーセージから湯気が立ち始めた。
鑑賞者が一斉にテーブルを覗き込んで、ソーセージが焼きあがる様子をじっと見守る。ひとつ、またひとつと湯気が上がるソーセージが増えると、部屋中においしいにおいが充満!!
焼きあがり時間がいつもより少々時間がかかったので、少々不安そうだった出前調理人に笑顔が見えた。
しかし、問題が・・・。
焼きあがるソーセージは長さによって順番が違う。
短ければ早く焼きあがり、長ければ遅い。また、アルミホイルの巻きつき具合によっても焼きあがり時間が変わるため、焼き上がりは15個ばらばらになるのだ。
焼きすぎても味が落ちるし、生でも困る。
結局、電流が流れたまま、焼きあがったホットドッグをはずし、はずしたところに新しいホットドッグを補充する形がとられた。
これは、出前調理人はじまって以来の試み。
出前調理人一人ではまかないきれないので、スタッフも恐る恐るクリップをはずしてサーブする。
はずしたクリップ同士を一時つないで電流を確保し、ホットドッグをサーブする。新しいホットドッグが配られてくると、クリップを改めて配線をする。
電流が流れたまま上の作業を行うので、感電を防ぐために、両手一度にクリップを持たず、片手でクリップを扱う必要があるので、大変やりにくい。
徐々に慣れてきたな・・・と思った瞬間!
バリン!!!
スタッフが持っていたクリップから火花が散って1回線がショートした。
つないではいけないクリップ同士を間違ってつないでしまったためにショートしたのだ。クリップ同士はがっちりとくっついて、簡単には離れなかった。
その様子に、それまで和やかに進められてきた会場と、少々高揚気味のスタッフの間に緊張が走った。
火花が飛び散るような電気の姿と、私たちが常日頃コードをつないで電化製品などを何気なく使用している電気の姿とのギャップが大きく、これが同じものだという感覚がつかめない。
私たちは、このような自然の力を、コントロールすることで安全に使えるようにしているが、むき出しの電気の姿を見るとすざましい威力に驚かされる。
これが『電気』本来の姿なのである。
ハプニングから思いがけない発見がもたらされた瞬間だった。
あっという間に200個のホットドッグは配られ、パフォーマンスは無事に終了。
緊張とめまぐるしい作業で、出前調理人もスタッフも少々疲れた様子。
まだ時間があるので、少し休憩をとった後、予備に作られていた50本のソーセージも調理することになった。
ソーセージもホットドッグと同様に配線して焼き上げる。これは、フランスで初めて行われた出前調理人のパフォーマンススタイル。
お皿の上に肉汁がほとばしり、とてもおいしそうに焼きあがる。
当時の調理人は今の衣装とは違って、日本らしい衣装で大工のように道具を運んできて、その場で調理器具を組み立ててソーセージやケーキを焼いた。このパフォーマンスのコンセプトと表現方法はフランスで大変評価が高かった。
今回は、これとは別の焼き方でもソーセージが焼かれた。
電流の方極を鉄板に流し、もう一方の極をコテのような電撃調理道具に流す。
ソーセージを鉄板に並べ、出前調理人がコテでソーセージを鉄板に押すようにして焼く。
バリバリという音と共に、スモークのような香りがして、一瞬にしてソーセージが焼きあがった。配線の彩がない分寂しく見えるが、焼きあがる時の音が迫力満点。
このソーセージも鑑賞者の方に食べていただて100本ソーセージも完食。
だれも怪我をすることなく、無事に出前調理人のパフォーマンスが終了した。
このパフォーマンスには常に危険が伴う。手元にはブレーカーが取り付けられており、できる限り安全に調理するように心がけてはいるが、それでも感電の危険性は皆無ではない。
普段、生活で使用しているのと同じ『電気』なのだが、このパフォーマンスを見ていると、つい興味と同時に危険という目で『電気』を見ている自分に気が付く。
自然の姿に近い『電気』を扱うときに感じる緊張感は、人間が自然と向き合ったときに感じる恐怖感に近い近いような気がする。
私たち人間は、様々な手段を用いて、自然の力を恵みとして操るすべを手に入れたような錯覚に陥ることが多いが、実際には自然の力を手中に収めることなどできようが無い。
出前調理人は、奇抜で少々滑稽な手法で料理しながら、そんな自然の力の圧倒的な大きさを、私たちの前に提示してくれているように思う。