木もれ陽シリーズ
葉と葉の隙間は円くないのに、風で木が揺れてキラキラと輝くこもれびをよく観察してみると、全て円いことに気がつきます。
これは、葉と葉の隙間が天然のレンズになって光を集め、太陽の形を反転させて地面に映し出す自然現象です。
この現象を利用した木村の代表作品が『木もれ陽プロジェクト』。
当初、頭の中でイメージして空想の中で楽しむデッサンという形で完結していた作品でしたが、発表の回を重ねるごとに規模は拡大し、ついには屋外で本物の森を使って星の木もれ陽を出す大掛かりな作品へと成長しました。
この『木もれ陽シリーズ』では、デッサンから始まり、徐々に規模を拡大し、構想から10年の月日をかけて、本物の森に星の木もれ陽を降らせた軌跡を辿ります。
過去の展覧会
- 「木もれ陽プロジェクト」 スパイラルガーデン(東京/2002)
- 「越後妻アリーアートトリエンナーレ2006『星の木もれ陽プロジェクト』」 十日町市(新潟/2006)
- 「木村崇人展」 山梨県立美術館ギャラリーエコー(山梨/2006)
- 「木村崇人展 木もれ陽プロジェクト」 フタバ画廊(東京/2007)
- 「森を遊ぶ・木村崇人展」 すみだリバーサイドギャラリー(東京/2008)
- 「木村崇人 『森_living』展」 世田谷文化生活情報センター 生活工房(東京/2009)
- 「星がすむ部屋」 森の総合駅・堅山町(愛知/2009)
- 「あいちトリエンナーレ『星の回廊』」 名城公園(愛知/2010)
- 「 木もれ陽プロジェクト『星の回廊』」アート漫遊いちはら いちはら市民の森(2011/千葉)
- 「Light ProjectⅤ 」KULTURHUSET VITA SKOLAN(スウェーデン/2013)
- 「Kommande utstallningar」HALLANDS KONSTMUSEUM(スウェーデン/2013)
- 「ちいさな木もれ陽プロジェクト」スマートイルミネーション新治 (横浜/2014)
- 「木もれ陽プロジェクト」六本木アートナイト(東京/2017)
代表作品
フランス事件
木村が初めてこもれびの仕組みを知ったのは、まだ小学生の頃。
読書好きの兄が、なぜ木陰にできるこもれびが全て円いのかを自慢気に話してくれたことがきっかけだったと言います。
それから何年も経った1996年、その記憶は鮮やかによみがえります。フランスに籍を移して学んでいた時、プロジェクタ−映写の為に暗幕を閉めて部屋を暗くしていた教室で事件は起きました。
木村は暗幕と暗幕の隙間から差し込む光の先に目を奪われました。天井に何やらうごめく映像が映し出されていたのです。
目を凝らしてよく見ると、それは道路の白線に車が通り過ぎ、人々が歩く日常の風景でした。木村は思わずカーテンを開けて、その風景がまさしく今窓の外にある風景そのものであることを確認しました。
ピンホール(針穴)でなくてもピンホール現象は起きる!!
その時、記憶となっていた少年の記憶が生きた知識となったのです。
デッサンから模型へ
2001年ギャラリー防空壕にて行われた『Pin Pon Pan Exhibition』では、イメージしていたこもれびの作品を、実験的に模型を使って発表。
時間ごとに星型と渦巻き型のライトが交互に点灯すると、盆栽の葉と葉の隙間からもれる光は、同じように交互に形を変えて映し出されたのです。
これによって、不定形な実際の葉の隙間でも、様々な形の木もれ陽を見ることができると確信したのです。
体験型木もれ陽プロジェクト
その後、星の木もれ陽を体験型に進化させたのがPepper’s Loft Galleryにて行われた個展『地球と遊ぶレシピ』。
見るだけでなく、実験をしながら木もれ陽ができる仕組みを体感できるようにした体験型の初めての作品。
この展示で進化をしたもう1つの形が『小地球プロジェクト』の展示。
壁に設置された奇妙なライトと木々の模型。これが、屋外型木もれ陽プロジェクトをイメージして発表された最初の作品でした。
より高くライトを設置するためにバルーン型したデッサンも発表。屋外型木もれ陽プロジェクトのイメージは膨らんでいきます。
ついには、木もれ陽プロジェクトのイメージは宇宙へと進出。日常的にこもれびの形を楽しめるアイデアまで発表されたのです。
木もれ陽ブース
SPIRALで発表した木もれ陽プロジェクトは、それまでのように暗くすることができない会場での展示依頼だったため、新しくボックス型の木もれ陽ブースが創られた。
それまで屋内の照明や、屋外の光の影響や、作品同士が干渉しあってしまう光の問題を解消することができた。
各ブースには木もれ陽を出す小道具がセットされており、光源が回転するブースも創られた。
光源か回転する木もれ陽ブースで撮影された『木もれ陽あそび』は、偶然お会いしたダンサーの 畑中やよいさん にお願いして撮影させていただいたもの。
踊るように動くしなやかな指の隙間から、回転する星の木もれ陽が現れる大変幻想的な美しい作品となった。
星の木もれ陽 屋内での挑戦
屋内で星の木もれ陽をより体全体で感じられる作品として発表されたのは、水戸芸術館で行われた『こもれび展』。
高さ13mの位置に2000Wの光源を設置した部屋を用意。
葉をあしらった傘『木もれ陽傘』をさして入場すると、傘の影ができた足元には星の木もれ陽が無数に現れました。
この時、光源の高さ、強さ、ピンホールになる穴の位置から映し出す地面までの距離などの問題に取り組み、より規模の大きい木もれ陽プロジェクトを現実にするための大切な知識を得ることができたのです。
屋外はじめての挑戦
星の木もれ陽プロジェクトがはじめて屋外で発表したのは、新潟県なかさと清津スキー場脇にある森でした。
高さ約50mに大型クレーンを使って重さ約9000Wの光源を吊り上げての大掛かりな作品となりました。
それまで映し出す地面を木もれ陽の形がはっきり分かるように白くしていましたが、大自然の森でより自然に近い状態で見えるこもれびをイメージして、あえて白くするなどの細工はしませんでした。
その代わりに考えられたのが『星取りアミ』。鑑賞者はこの『星取りアミ』を持って森に入り、星を捕まえるように星の木もれ陽を観察したのです。
天気が続いた日の夜は、肉眼でも地面に星の木もれ陽を見ることができ、全身で星の木もれ陽を感じ、幻想的な光景に釘付けになったのです。