出前調理人シリーズ
アートを出前する、というコンセプトから始まった出前調理人シリーズ。
この『出前調理人シリーズ』は木村のパフォーマンス作品の代表作でもあります。この作品が生まれたのは、皮肉にも言語の壁が原因していました。
言語の壁を乗り越えて観客の注目を浴びることができる作品スタイルを模索して、様々なパフォーマンス作品が生まれました。
日常生活に欠かせない電気は、ともすると人間が作り出したエネルギーだと考えてしまいがちですが、雷や静電気に見ることができる自然現象の一つです。
人間はこの電気を自ら作り、蓄え、調節することで生活に取り込むことに成功しました。
出前調理人は日常私たちが使用する電気調理器の使用方法とは異なる方法で調理を行います。直接電気を食材に流し、エネルギーが熱となって現れる姿を目の当たりにさせてくれるのです。
見る人は、この調理方法に驚いて一瞬危険を感じます。この危険を感じる存在こそが電気本来の姿なのではないかと考えるのです。
過去に行われた展覧会
- 「ノンポリ大阪」 sumiso(大阪・2003)
- 「出前調理人100V電撃調理法」 UDCK(千葉・2008)
- 「食と現代美術 part6 フルコース」 BankArt 1929 Yokohama(神奈川/2010)
その他多数
代表作品
言葉の壁
木村がパフォーマンスを作品に取り入れ始めたのは、フランス留学中のこと。
フランスでは、鑑賞者が作品のコンセプトなどを、作家に直接聞かれることが多々あります。
それは、作品そのものはもちろんですが、作品に込められた見えないメッセージを楽しむ傾向があるから。
鑑賞者からの質問に、アーティストが応えられないと、作品の魅力は半減してしまうことすらあるほどなのです。
木村はフランス語が堪能ではなかったため、せっかく作品に興味を持ってもらえても、インスタレーションという難しい表現を言葉に、しかもフランス語で説明するのは至難の業でした。
そこで、木村は簡単な言葉でもコミュニケーションがとれ、鑑賞者を巻き込んで作品を完成させてしまう【パフォーマンス】という新たな表現方法にたどり着きます。
その始まりがアートを自宅にデリバリーする『出前調理人』。
食材に直接電流を流す『電撃調理法』で、生のソーセージを一気に焼き上げ、焼きあがったソーセージを鑑賞者が体内に入れることで作品が完成するという、鑑賞者参加型パフォーマンスが完成したのです。
当時の出前調理人は、外国人である自分の魅力を最大限活かし、できるだけ多くの人に興味を持ってもらえるようにと、作務衣に下駄、調理する道具は一見してどうやって使うのか解らないように日本の大工道具を入れる箱などを使って持ち運びしました。
狙いは的中し、鑑賞者は木村の一挙一動に注目をし、興味を持って作品を干渉してくれるようになりました。
そして、出前調理人を含む作品群で、フランスで最も評価の高いフェリスタションという評価を得て大学を卒業することになります。
この作品によって、木村は実際に体験したり目撃することが、どんな表現方法よりも深く理解してもらえることに気づきます。
このことが、木村の作品の多くを体験型の作品になる大きなきっかけとなっていきます。
手作りソーセージ
フランスでは、スーパーに行けば生のソーセージが手軽に買えます。
しかし、日本で販売されているソーセージはボイルされていたりスモークされていたりして、すでに加熱処理がされているものがほとんどです。
そこで、木村はソーセージそのものも作品として制作することになりました。
ソーセージの太さ、長さ、塩分の量、油の量・・・様々な組み合わせで、焼きあがる時間や、必要電力が変わってきます。
まさにソーセージに電流が流れることによって「焼ける」という化学変化を起こしているのです。
さらに、様々な羊腸を試し、おいしさも追求。ソーセージの味も数種類に渡りました。
やがて、ソーセージだけではなく、前菜からデザートまでフルコースを『100V電撃調理法』でサーブすることができる道具を制作することになっていきます。
フルコース100V電撃調理法
鉄板でできたテーブルの上に絶縁体を乗せ、その上に細い鉄板がもう一枚載せてあるダイニングテーブル。
これが『出前調理人』のフルコースをいただくテーブル。
これらの鉄板には、もちろん100Vの電流が流れているのですが、両方の鉄板を同時に持たない限りは感電することはありません。
そう解っていても、テーブルに手をのせるのもためらいたくなるような緊迫した空気が会場全体に漂っています。
出前調理人が登場すると、調理の危険性と本日のメニューの説明がされて、いよいよ料理開始。
レストランでフルコースをいただくのとは違って、緊張した空気が流れる中で食材が運び込まれ、鑑賞者は自分の食べる料理を調理するのに協力してもらいます。
料理というよりは食材に配線をするわけですが、ひとつ間違うと自分自身が感電してしまうので、鑑賞者は用心深く出前調理人の指示に従って厳かに進められます。
到底調理器具とは思えないような道具によって行われる、見たことの無いような調理方法。
目の前で展開される様子を、鑑賞者は調理と言うより実験を観察するような眼差しで料理に釘付けになります。
はじめは調理されたものを口に入れるだけで感電しないか心配する人もいましたが、食べてみれば普通の食材。
「美味しい!!」の言葉が湧き上がると、驚きと安堵の声が会場全体に広がって、緊張した空気の中にも笑顔が見られるようになります。
普段何気なく利用している電気ですが、もとをたどれば雷などに見ることができる自然現象。
利用しやすいように加工された電気を普段使っていると、電気のイメージは人工的なものになっていますが、こうしてむき出しの電気を扱うとなると、電気のイメージが一変します。
出前調理人は、この生の電気の姿を視覚化させる手段として、食材を感電させて調理するのです。
よりリアルに、電気の様々な表情を引き出すことを追求した結果が、フルコースに見る調理方法の多彩さにつながったのです。